ノーマン・ロックウェルと水爆

二学期も二週目に入りました。
先週から始められた新入生たちも、慣れてきたでしょうか。
手続きやカリキュラム調整で少し手間取って、先週はあまり書けませんでしたので、今週はいくつか面白そうなことを書いていきましょう。
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今日は、ノーマン・ロックウェルの話など。
最近府中美術館でも展覧会が行われたロックウェル(1894-1978)は、アメリカを代表する画家・イラストレーターの一人でしょう。その作品を見ればだれでも、一度は見たことがある作品ばかりなのに気づく、そういったポピュラーなイラストレーターです。彼がもっとも活躍したのは1940-1950年代でしょうか。彼を一躍有名にしたのは、18世紀から発行され続けてきた、サタデー・イブニング・ポストのカバーでしょう。アメリカの雑誌の中でも格調高い、ポストのカバーは、その当時としてはかなり水準の高いカラー印刷で仕上げられていました。当然ロックウェルのイラストは、ポストという雑誌のイメージを代表するものとなりました。今で言うCI的デザインとなっていったのです。彼の作品は『アメリカン・ノスタルジー』の枠内で語られることがおおいようです。古きよきアメリカの市井の人々の、日常生活の断片を、あるときはユーモアたっぷりに、またあるときは風刺をこめて描いています。デフォルメの上手さ、物語性のあるシーン。それがどんなシーンなのか誰にでも分かる。そして見た人をニヤッとさせるような暖かなユーモア。多くの作品にはそういった、『アメリカの良心』とでも呼べるような雰囲気があふれています。
ロックウェルの作品は、それが雑誌のカバーだということもあって、その表紙だけが展示されたりすることが多いようです。けれども、これはあくまで雑誌なので、雑誌として手にとって見ると、また違った側面が見えてきます。
最初にあげる一枚は1941年7月26日号。題名はtwo flirts (flirtには、浮気する、ナンパするという意味と、ひょいと投げるという意味があります。ナンパと花びらを投げるのを掛けているのです。)おじさんたちの乗っているトラックの側面に描かれたように、雑誌名が読める、という、楽しい作品です。内容は見てのとおり。戦前のアメリカの陽気さ(日米開戦は1942年12月です)に圧倒されますが、カラー印刷のよさに、もっと驚かされます。
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次にあげる一枚は1957年3月25日号。題名はafter the prom プラムとは、高校卒業のときに行うダンスパーティーのこと。初めて大人としてレディをエスコートしたその帰り、立ち寄った店での一シーン。手袋着用の、初々しいジェントルマンぶりの男の子の顔は、緊張ではにかんで見えます。この作品だけを見ていると、むかしのアメリカはなんと素敵だったのだろうと思えますが、この号のトップ記事は「水爆が落ちたらアメリカはどう行動するか?」で、その内容は、冷戦を背景に、ソヴィエトの核攻撃におびえる世相を反映しています。ロックウェルが描き続けていた、アメリカの美しい風景は、すでにその周囲にあらわれたさまざまな脅威に脅かされていたかのようです。雑誌記事の過激さと、ロックウェルのカバーとのコントラストは、そのまま苦悩するアメリカの両極を、いみじくも表わしているのです。

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ロックウェルが亡くなる数年前、ポストは「ロックウェルを訪問して」という特集号を発行しています。年老いたロックウェルの創作秘話も多く載せたインタビューは1971年夏のもので、このころ激化しつづけるヴェトナム戦争情勢は、すでに抜きさしならないところまできていたのです。
by seibi-seibi | 2010-09-13 14:42 | デザインするって? | Comments(0)


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