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人の始原への旅

 五月。初夏。爽風。一年でもっとも過ごしやすい季節、久しぶりに国立科学博物館に行きました。
 「特別展・グレートジャーニー 人類の旅』展(6月9日まで)が開催中。今回のお目当てはこの展示です。
 人類が直立二足歩行を始めてから700万年。アフリカで誕生した人類は、数十万年前にアフリカから旅立ち、ユーラシア大陸へと向かいます。そしてベーリング海峡を越えてアメリカ大陸へ、あるいは海路オーストラリアやサモア諸島へと広がっていったのです。すべてを人力だけによって、歩いて行った人々のおおいなる旅を検証し、現代社会の問題点に目を向けていく。今回の展示は、そまような趣旨を持っています。
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 展示の監修を行ったのは、武蔵野美術大学教授・関野吉晴氏です。医師であり探検家でもある氏の活動は、フジテレビで放映された「グレート ジャーニー」でつとに知られているところです。数年前のムサビ・オープンキャンパスの折にも、今回展示された大型のシーカヤックが、12号館前に鎮座していたのを覚えています。関野吉晴氏は、このシーカヤック「縄文号」で南洋の島々から石垣島を目指したのです。
 人間は、思考することをやめられないのと同様に、移動し、探索することもその宿命として宿しているのかもしれません。とどまることに満足せず、どこまでも進んでいく人類は、やがて世界の隅々へと広がり、その土地土地の環境に適応し、さまざまな技術を発達させました。関野吉晴氏は、その足跡をただ歩くことによってたどり、現在にまで続く進化・進歩をたどっていったわけです。氏は、アフリカに向かう、つまり、遡行するルートを選択します。南米の果て、パタゴニアも近い岬から、アフリカまでの遡及。それは時間をさかのぼる、始原への旅でもあります。人類の存在を考えるのに、これほど適切な旅は他にないように思われます。
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 旅の途中でであった人たち。民族も年齢も多岐に渡る「友人」たちから、氏は多くのことを感じ学び取ります。自らのうちにある文化・慣習、日本人としての「私」は、ゆさぶられ、刷新されていく。その過程こそが、旅なのです。価値観の違いを身をもって感じること。「文化相対主義」というだけでは収まらない、豊かな体験をしながら、旅の最終目的地である、アフリカはタンザニア・ラエトリ。そのに360万年前の家族の足跡が残っている。最も古い「人類の足跡」のある場所まで歩いて向かう、遠大な計画です。
 「われわれはどこから来たのか われわれは何者か われわれはどこへ行くのか」タヒチでゴーギャンが発した言葉ともつながる、人間の持つ根底的な問い。それを歩き、漕ぎながら考えていくことは、換言すれば、みずからの実在そのものを問う行為に他なりません。
 旅の体験は必然的に、現在の人類が直面している問題について考える契機となります。人はどこに向かうべきなのか、なにが本当は大切なのか・・・。展示を通じ、監修者の問いが、鋭く投げかけられます。数十年前にはアマゾンの奥地で、自給自足の生活をしていたマチゲンガ族の人々も、現在では町に定住し、携帯電話を携えている。20世紀の急激な変化は、アマゾン奥地の文化をも変えているのです。モバイルツールを手にした彼らは、かってのように森の聖霊の声を聴き、動物と交信し、「語り部」の物語を聞くことは、もうないように思われます。「変化」は不可避なことであって、それを受容せず、ただ過去にとどまっていることはできない。それを否定もできないけれど、その先にあるものに目を向けてみるとき、一抹の不安を感じてしまうのは、わたしだけなのでしょうか。
by seibi-seibi | 2013-05-31 14:58 | 人と絵と、イメージ | Comments(0)